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外は今日も美しい雪が降っています。
白銀に染まった町並みは、まるで絵画のようです。
私はこの景色が幼い頃から大好きでした。
しかし、雪に触れることは決して許されません。

世界は汚れすぎました。
今の時代に外を歩くことは自殺行為のようなものです。
美しき雪は、毒に犯されています。
まるで、私の心のようです。

お屋敷の外では一人のメイドが雪かきをしています。
見た目は十代後半ほどの可愛らしい女性です。
柔らかな栗色の髪に雪が降り積もるのも構わず、無表情で黙々と仕事を行っています。

彼女は生きていません。
命を惜しむ人間たちは、外での仕事を機械に託しました。
外で仕事をする機械たちは、すぐに壊れていきます。
世界は機械ですらも耐えられないほどの毒を孕んでいるのです。


「ララ! こちらへいらっしゃい!」


私は窓を開けて、はしたないほど大きな声を、白銀の世界に響かせました。
ララはこちらを振り向き、静かに目礼をしてお屋敷へと入っていきます。
声は雪に溶けて静かに消えていきました。

私が度々、彼女の仕事を妨害することを、お父様やお母様たちは良く思ってはいません。
それでも私は構わないのです。
彼女が壊れてしまうことが、私にとって一番恐ろしきことなのですから。

部屋を控えめにノックして、ララが入ってきました。
彼女は私が子どもの頃にやってきたメイドです。
人間と変わらない見た目の機械に、私は愛着を持ちました。


「外は冷えたでしょう。貴方を外に出すなんて、お父様ったら酷いわ」


私はララを手招き、壊れ物を扱うかのように、そっと頬に触れました。
ララは感情の映らない瞳で、私を見つめます。

機械に心はありません。
それすらも、無垢で美しいと思ってしまう私は罪なのでしょう。
愛着が愛情に、そして執着に変わったのは、いつの頃だったかもう忘れました。


「愛しているわ、ララ。ねぇ、愛していると言って」

「お慕いしております、お嬢様」


主人に命令された機械は、言葉の意味も分からずに嘘を紡ぎます。
そこに愛なんてありません。それでも私は構いませんでした。

私の心は雪のようです。
触れたらすぐに溶けてしまう甘い雪は、恋慕という名の猛毒を孕んでいます。
雪は少しずつ降り積もり、機械を壊してしまうほどの汚い世界になってしまいました。

ララは私の汚い心なんて何も知りません。知らなくて良いのです。
誤魔化すように微笑んで、吹き溜まる劣情を隠しました。

ちゃんと、隠せているでしょうか。
本当は、機械相手に隠す必要はありません。
彼女は何も分からないのですから。

それでも私は彼女の前では美しい存在でありたいのです。
世界を白銀に染める雪のように。


「ララ、ずっと一緒に居てね。これも命令よ」

「はい、お嬢様」


いずれ私は彼女より先に逝くでしょう。
そのとき彼女は、この命令から解放されるのか、それとも……。

あまりに悲しい光景を想像してしまいました。
彼女に心はありません。私を愛してくれることもありません。

私が雪に還ったとき、この恋人ごっこは終わるのです。
そして他の誰かから新たな命令を上書きされて、彼女は私のことを忘れていくのでしょう。
幸せなことではありませんか。


「……私は貴方にとって、ひどい主人ね」

「………?」


私が死んだあとも、彼女が私を覚えていてくれたら……。
恋人であることを続けてくれたら嬉しいと思ってしまうのです。
なんて、ひどい感情なのでしょうか。

人は死んだら天国へ逝くそうです。
機械は死んだら、どこへ逝くのでしょう。
心も魂も無いのだから、ただ泡沫のように消えていくのかもしれません。
けれども私は、彼女を待ち続けるのだろうと思います。


泡沫のような夢に、永遠の恋を信じて。