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みちくさラジオ イヌホオズキ


リサ
「あれ?
なにかのレシピを書いた
紙が落ちてたよ?」
豊穣の女神
「えっ、これ、
あきらかに危険そうなレシピ…」
レスト
「あっ、2人とも。
今日のラジオで使う資料を
どこかに落としたんだけど知らない?」
豊穣の女神
「こんな危険なことを紹介するラジオなんて、
わらわはイヤじゃ! やりとうない!」
リサ
「レストお兄さん、
勇者なのに捕まっちゃうの?」
レスト
「なんだかとてつもない
誤解をされてる気がするな!?」
レスト
「というわけで今回ラジオに届いた
おたよりはこちらです」
リサ
「よびりんさん、おたよりありがとう!
お写真もよびりんさんが撮ってラジオに
送ってくれたよ!」
レスト
「ありがとう~」
豊穣の女神
「イヌホオズキといえば、
さっきの危険なレシピの材料に
書いてあったような…?」
リサ
「つ、つまり、このお花は
違法な植物…!?」
レスト
「違法ではないからね!?
日本全土の道ばたや畑に生えているし、
漢方に使われることもある野草だよ」
豊穣の女神
「でもこの野草、
毒があるんじゃろう?
おたよりにも書いてあるぞい」
レスト
「そう、毒草だから取り扱いには注意だね。
だから今回、専門家をゲストにお呼びしたよ」
リリス
「こんにちは~。
はじめまして、魔女のリリスです!
お呼びいただきありがとうございます」
リサ
「このラジオにも、ついにゲストが!?
はじめまして、リサです!
よろしくおねがいしま~す!」
リリス
「私、魔女ではあるんだけど、
まだまだ勉強中の身なのよね…。
大丈夫かしら…?」
豊穣の女神
「このラジオはそもそも
異世界出身のわらわ達が別世界の
植物について喋るラジオじゃからのぅ」
レスト
「同世界の専門家の知識を得たいときは
ラジオの最後に参考文献を載せてるから、
そちらのほうをチェックだよ~」
リサ
「…そのお知らせ、
このラジオの第1回目から
言うべきことじゃなかった?」
レスト
「それはそう」
リサ
「言うのが遅すぎるよ~!」
リサ
「そもそも、イヌホオズキって
どんな植物なの? 名前にイヌって
ついてるけど、ワンちゃんと関係あるの?」
豊穣の女神
「イヌとつく植物は、昔の人が
役に立たないと思ったものに
つけた名前なんじゃよ」
レスト
「ホオズキに似てるけど、
食べられないし使い道がないから
イヌホオズキって呼ばれたんだ」
リサ
「えぇー…。
ワンちゃん、かわいいし頭良いのにね」
リリス
「植物以外でも、役に立たずに亡くなってしまうことを
犬死になんて言うし、どうしてかしらね?」
豊穣の女神
「犬に対して失礼なことについての謎は
今回調べてないから分からないままじゃのぅ。
この謎は視聴者プレゼントにするぞい」
レスト
「プレゼントっていうか
ただの押し付け…」
リサ
「宿題をプレゼントって
言い張る先生みたいだね」
レスト
「そんなイヤな先生いる?」
リリス
「あはは…。それはさておき、
そのイヌホオズキ、魔女のあいだでは
ちょっぴり有名なのよ」
リサ
「そうなの?
役に立たないワンちゃんなのに?」
リリス
「昔の魔女たちは、
これを『魔女の軟膏』に
使っていたと言われているの」
豊穣の女神
「ほう…!
それが冒頭の危険そうな
調合レシピのことじゃな!?」
レスト
「そう、だから別に俺が
危険な調合しようとしてレシピを
用意していたわけじゃないんだよ」
リサ
「普段の行い…」
レスト
「じゃ、さっそく
魔女の軟膏について
くわしく聞いていくよ~!」
リサ
「あっ、スルーした!」
豊穣の女神
「魔女の軟膏というのは、
どのような薬なのかえ?
呪いの儀式に使うとか…?」
リリス
「これはね、お空を飛ぶための薬なの」
リサ
「ええっ!?
魔女って、ホウキに乗って
ビューンって飛ぶんじゃないの!?」
リリス
「それも間違いではないんだけど、
乗る道具よりもお薬のほうが重要なの」
レスト
「実際にはその軟膏の毒で幻覚を
見ているだけで、本当に飛んでいるわけではない
という説が濃厚らしいけれど…」
豊穣の女神
「ま、まぁ、たしかに
幻覚を見そうなレシピでは
あったのぅ…」
リサ
「だってイヌホオズキも毒だもんね」
レスト
「ソラニンやサポニンっていう神経に作用して、
幻覚やめまいを起こすこともある毒が含まれているよ。
痛み止め軟膏の成分にもなるけどね」
リリス
「ちなみに、イヌホオズキはナス科なんだけど、
ナス科の植物って昔は『夜の陰(Nightshade)』
なんて暗い言葉で呼ばれていたこともあるの」
リサ
「ナス、おいしいのに!?」
リリス
「そしてイヌホオズキはそれに加えて
『真っ黒な』という形容詞がつくんだよ」
豊穣の女神
「真っ黒な夜の陰…。
魔女の怖いイメージには
ピッタリかもしれぬのぅ…」

レスト
「ここで、あらためて
調合レシピを見てみよう」
豊穣の女神
「あきらかに非人道的な
材料があるのぅ…。肉…」
リリス
「一番そこに目がいくよね。
ケシもかなりアウトだけど…」
リサ
「魔女さん達って
お空を飛ぶためにみんな
こんなレシピを作ってるの?」
リリス
「そんなことないよ。
これは魔女裁判で尋問された結果
作り上げられた架空のレシピというか…」
レスト
「中世の魔女狩りといえば有名だよね。
そこで空飛ぶ軟膏についてが出てきたんだ?」
リリス
「そう、魔女である証明として、
悪魔から作り方を教えてもらったと
言わせることが大事だったみたいだよ」
豊穣の女神
「そこで適当なそれっぽい材料を
言った結果、こんな恐ろしいレシピに
なってしまったのかもしれぬのぅ」
リリス
「魔女として告発された人たちのなかには、
医者や薬剤師、学者もいたそうだから
なおさらそれっぽく出来上がったのかも」
リサ
「空飛ぶ軟膏のレシピを実際に
作ってみた人はいたりしたの…?」
レスト
「レシピは他にもいくつかあって、
後年それを作ってみた学者はたくさんいたそうだよ」
リサ
「たくさんいたの!?」
レスト
「皮膚に塗ったら、素晴らしい夢のような
飛行体験をしたと語った学者もいたとかなんとか」
豊穣の女神
「それ、夢のようなっていうか、
実際ただの夢じゃろ」
レスト
「夢だね」
リリス
「危険だからみんなは真似しちゃダメだよ」
リサ
「絶対やりたくないよ~…」
リサ
「イヌホオズキって
かわいいお花が咲く野草なのに、
こんな怖いお薬の材料にもなるんだね」
豊穣の女神
「かわいいけれど怖い一面もある…、
イヌホオズキ自身が魔女のようじゃのぅ」
レスト
「見た目に騙されて、
うかつに触らないように気を付けてね」
リリス
「むむむ、危険な魅力って感じで素敵だわ!
私もそんな魔女になってみたい…!」
リサ
「リリスお姉さんもかわいいけれど、
でもまったく怖くないなぁ」
リリス
「えぇっ、そんな…!
一応これでも魔女なのに!」
レスト
「きみの住んでる世界でも魔女って
迫害の対象なんでしょ。怖くないほうが
正体がバレなくていいんじゃないの」
豊穣の女神
「そうなのかえ?
リリスも魔女裁判にかけられる可能性が…?」
リリス
「そのときは今日の
空飛ぶ軟膏のレシピを言うわね」
レスト
「それ言ったら完全にアウトじゃない!?」
リサ
「リサは魔女さんのこと好きだよ。
かわいくて、ちょっとミステリアスで、
みんなを幸せにする魔法を使えるの!」
リリス
「リサちゃん…。
そうね、そんな魔女さんも
きっといると思うわ」
リサ
「リリスお姉さんも、
そんな魔女さんでしょ?」
リリス
「そうかな…?
私、そんな素敵な魔女さんに
なれてるかな?」
豊穣の女神
「もちろん、そうだとも!」
リサ
「だからね、もしもリリスお姉さんが
世の中の人たちにかんちがいされて、
こわい目にあっていたら、リサが助けにいくよ!」
リリス
「…ありがとう、リサちゃん。
私、リサちゃんに好きでいてもらえるような、
素敵な魔女でいれるようがんばるね」
レスト
「じゃあイヌホオズキみたいな
怖い系魔女になるのは中止ということで…」
リリス
「むむむ、でもやっぱり
危険な魅力も捨てがたいわ…!」
レスト
「せめて、今日の空飛ぶ軟膏のレシピを
言うのだけはやめておいてね…」
豊穣の女神
「そういえばリリスは
空を飛ぶことはできぬのかえ?」
リリス
「うーん、私は飛べないなぁ…」
リサ
「じゃあリリスお姉さんは
本物の魔女さんじゃないかも…」
リリス
「そ、そんな!?」

【参考文献】
・西村 佑子 著『魔女の薬草箱』ヤマケイ文庫(2018)
・稲垣 栄洋 著『雑草手帳:散歩が楽しくなる』東京書籍(2014)
・山田 隆彦 著『自然散策が楽しくなる! 花図鑑』池田書店(2022)
・森 昭彦 著『身近な雑草のふしぎ野原の薬草・毒草から道草まで、
魅力あふれる不思議な世界にようこそ』SBクリエイティブ(2009)