フリーゲーム制作サイト。
みちくさラジオ スミレ

リサ
「うーん、なかなか
咲かないなぁ…」
レスト
「どうしたの、リサちゃん。
花でも育ててるの?」
リサ
「スミレのつぼみを見つけたから、
観察日記をつけてるの!」
豊穣の女神
「ほぅ、勉強熱心で感心じゃのぅ。
…しかし今は秋じゃぞ?」
リサ
「さいきん、いじょーきしょーだからね!
季節をうっかり間違えるスミレもいるのかも!」
レスト
「季節を間違えて咲いちゃうお花、
ときどき見かけるよね。
種類によっては秋に咲くスミレもあるし」
リサ
「でしょ?
でも、このスミレ…。
ずっとつぼみのままなんだよね…」
豊穣の女神
「やっぱり秋だから
なかなか咲けないのかのぅ?」
レスト
「じつはそれ、咲かないのが
正解なんだよね」
リサ
「えっ、どういうこと?」
レスト
「というわけで、
今日のみちくさラジオでは
スミレについてお話をしていくよ~」
豊穣の女神
「おたよりも届いておるぞい!」
リサ
「おたよりありがとう~!
スミレの花、とってもかわいいよね!」
豊穣の女神
「菫色という言葉があるように、
スミレは紫色の花が上品で可憐よのぅ」
リサ
「スミレが咲くと、道が一気に
あかるくなってわくわくする!」
レスト
「スミレは食えるし、
わくわくするよね」
リサ
「えっ、食べるの…?」
レスト
「葉は天ぷらやおひたしに、
花は酢の物なんかにできる」
豊穣の女神
「その情報、いらなかったような」
レスト
「最重要の情報でしょ!?
ほら、スミレの砂糖漬けとかもあるじゃん!
由緒正しき食べられる野草だよ!!」
リサ
「な、なるほど…?
たしかにスミレの砂糖漬けは
オシャレで良いかも」
レスト
「俺は紅茶のお供よりも
酒のお供になる食いかたのほうが良いけどね」
豊穣の女神
「やっぱりその情報、
いらなかったような」
レスト
「最重要の情報でしょ!?」
リサ
「それより、最初のお話についての
答えを教えてよ!」
レスト
「え?
スミレの天ぷらに一番合う
酒はなにかって話?」
リサ
「ちが~う!
リサはまだお酒飲めないし
それはどうでもいい!」
豊穣の女神
「花が咲かないのが
正解とはどういうことなんじゃ?」
レスト
「それはね、秋のスミレだからだよ」
リサ
「でも、つぼみはあったよ?」
レスト
「じつはスミレって、夏から秋にかけて、
つぼみのまま絶対に咲かない花をつけるんだ」
リサ
「絶対に咲かないお花!?
それ、咲いてないのと同じじゃない?」
豊穣の女神
「春に咲かせる花とは
また違う花なのかえ?」
レスト
「花が咲いたときは虫に来てもらって、
種を作る準備をするよね。虫が少ない季節や、
雨の日が続く時はどうなるかな?」
リサ
「むむむ…!?
もしかして、咲かない花は
拗ねて諦めちゃった子!?」
レスト
「むしろ、その逆で
開き直ってるというか…」
豊穣の女神
「虫を待たずに自分で
どうにかすることにした!」
レスト
「おお、正解!
野草ポイントを1Pあげよう」
豊穣の女神
「な、なんじゃろう、
正解したのに複雑な気分じゃ…。
野草ポイント1…」
リサ
「つぼみのままのお花は
虫さんを呼ばなくても、
自分でタネを作れるってこと?」
レスト
「そうだよ。
自分で自分の花粉を受け取って、
こっそり、確実にタネを作るんだ」
豊穣の女神
「花を咲かせるための力も節約できるし、
地味じゃが賢い戦略を持っておるのぅ」
リサ
「このスミレのつぼみは、目立たなくても
自分のペースでちゃんと頑張ってるんだね!
えら~い!」
レスト
「咲かないつぼみは、いずれ実になるから
リサちゃんも観察をこのままがんばってみてね」
リサ
「そうなの? 楽しみ!
これからも絵日記をつけるぞ~!」
豊穣の女神
「…あっ、この日記、
ずっとつぼみの絵しかない」
レスト
「やっぱり花が無いのって寂しいし、
絵を描くのはたまにでいいかもね…?」
リサ
「スミレは賢いお花って分かったけれど、
ほかにもそういう、かしこエピソードはあるの?」
レスト
「そうだねぇ…。
アリにおやつをあげる作戦の話なんてどう?」
豊穣の女神
「おやつをあげる作戦!?
そもそも、そのおやつはどこから!?」
リサ
「もしかして自分で作ってる!?
スミレ、おかしやさんになるの巻!?」
レスト
「おかしやさんになるの巻!?
なにかの物語を始めようとしてる!?」
リサ
「むかしむかし、あるところに
スミレおじいさんとスミレおばあさんが
おったそうな…」
豊穣の女神
「おじいさんとおばあさん、
どっちも同じ名前なのかえ」
レスト
「そ、その話は今度くわしく聞くとして。
スミレのタネにはね、アリが大好きな
おやつみたいな部分がくっついてるんだ」
リサ
「どうして?
スミレはアリさんと仲良しなの?」
レスト
「これがスミレの賢い作戦なんだ。
アリは「やったー!おやつだ!」って
タネごと巣に運ぶでしょ?」
豊穣の女神
「確かに、わらわもおいしいものを見つけたら、
家に持って帰りたくなるからのぅ」
レスト
「拾い食いはしないでね…?
それで、アリはおやつだけ食べて、
いらなくなったタネを外にポイッと捨てるんだ」
リサ
「あっ、ポイ捨て。
わ~るいんだ~」
レスト
「でも、アリの巣の周りは植物の栄養が
いっぱいの最高の場所だから…」
豊穣の女神
「そうか、ポイ捨てされることが
スミレの狙いなんじゃな!」
リサ
「お~! それでスミレのタネが
良い場所まで運ばれるんだね!」
レスト
「そう、これがアリにおやつを
あげる作戦ってわけ」
豊穣の女神
「アリに良い思いをさせつつ、
自分の目的も達成する。賢いのぅ」
リサ
「スミレってアリさんにお手伝いしてもらったり、
自分で頑張ったり、バランスいいなぁ」
豊穣の女神
「助けてもらう力と自分でやる力の
両方をもっているんじゃのぅ」
レスト
「リサちゃんはバランス、どう?」
リサ
「うーん…。
誰かにお手伝いしてもらうの、下手かも。
勇者だし、リサが頑張らなきゃって思って」
豊穣の女神
「むむ、まだこんな子どもなのに
それはいかん。ほら、ちょうどそこに
勇者のニセモノがおるじゃろう?」
レスト
「俺も一応は本物の勇者なんだけど」
豊穣の女神
「この勇者のニセモノにな、
うまく野草を与えるのじゃ」
リサ
「そしたら魔物退治を手伝ってくれるの!?」
レスト
「い、いや、別にわざわざ
野草を与えなくても普通に…」
リサ
「村の裏にある山にね、
こわい魔物がいるんだって!
でもきっと、そこに珍しいスミレもあると思う!」
レスト
「あー…。
探しに行くかぁ、珍しいスミレ」
豊穣の女神
「わらわも見たいのぅ、珍しいスミレ。
スミレっていろいろ種類があるんじゃろう?」
レスト
「およそ900種以上とも言われてるねぇ」
リサ
「じゃあ、そのなかのレアスミレが
見つかるよ! 味もおいしいと思う!」
レスト
「せっかく見つけたレアスミレを
食べちゃうの!?」
リサ
「食べないの!?」
豊穣の女神
「お主がスミレを食用にする
話ばっかりするから…」
レスト
「確かに最重要事項だとは言ったけども」
リサ
「みんなでレアスミレの
天ぷらを作りにいくぞ~!」
レスト
「お~!
天ぷら天ぷら!」
豊穣の女神
「目的の魔物退治を忘れるでないぞ?
まったく…。わらわはスミレの砂糖漬けを
食べてみたいのぅ」
レスト
「女神さまこそ食べること考えてるじゃん。
目的を忘れないでよ~?」

【参考文献】
山田 隆彦 著『自然散策が楽しくなる!
草花・雑草図鑑』池田書店(2020)

・鈴木 純 著『ゆるっと歩いて草や花を観察しよう!
すごすぎる身近な植物の図鑑』KADOKAWA(2022)
・稲垣 栄洋 著『野に咲く花便利帳』主婦の友社(2016)
・稲垣 栄洋 著『身近な雑草の愉快な生き方』 ちくま文庫(2011)